
特に、ビジネス的に、投機的にAirbnb(エアビーアンドビー)に注目している人々にとっては、そのAirbnbとやらがどの程度のインパクトを日本経済に与えたのか、気になっていることでしょう。
私はホームステイ型のホストであって、正直、経済的影響などにはあまり興味がありませんが、私のような政治経済オンチなホームステイ型のホスト方も、やはりある程度は、経済話にも耳を傾けておくと良いでしょう。経済的な用語・ニュースには頭が痛くなるかもしれません(私がそうです)。そのため、普段はあまり経済ニュースなど読まない読者も想定し、「どこよりも詳しい解説を、どこよりもわかりやすく」をテーマに、執筆を試みたいと思います。
1.民泊は、10兆円超の経済効果を生み出している!
日本政府の規制改革会議は、2015年暮れの11月19日、【民泊は10兆円超の経済効果がある】との試算結果を公開しています。
…10兆円という金額がどの程度のものか、早速見当もつきません。億を超えてしまうともう、「巨額」という言葉で一くくりしたくもなります。
規模の大きさをわかりやすくたとえるならば、日本の年間国家予算が100兆円ほどですから、その1/10にも達する数字です。
これほどの巨額を動かすのですから、何者も見過ごすことのできない、巨大産業・巨大市場に成長したと言えます。
民泊業界がこれほどの経済モンスターに成長することを、一体誰が予測できたでしょう?
Airbnbが誕生したのは2008年、日本で本格的に普及しはじめたのは、それこそこの発表と同じ2015年のことです。
ここで、素朴な疑問が生じます。
一体、10兆円ものお金が本当に動いているのでしょうか?そんなにAirbnb(エアビーアンドビー)を利用しているゲストがいるのでしょうか?
どうも、ニュース記事をよくよく読んでみれば、「経済効果」というのはかなり広範囲の事象を示していることがわかります。
経済効果10兆円のその内訳は、「宿泊した利用者の消費行動によるもの」が約3.8兆円、 「ホスト(民泊オーナー)が行う投資」が約1兆円、そして、「インバウンド消費(外国人観光客による消費)によるもの」が約7.8兆円、となっています。
では、これら3つの柱について、個別に考察してみましょう。
1 外国人観光客が、多大なお金を動かしている。
1-1.「宿泊した利用者の消費行動によるもの」が約3.8兆円。
柱の1つ目に挙げられているものが、いきなり「消費行動によるもの」となっています。民泊宿への宿泊費のことではなく、Airbnbなどで民泊した旅行者が観光で消費したお金のことです。はたしてこうした消費支出のことを「民泊の経済効果」と定義してよいものか、疑問は拭えません。これらの消費は、別に民泊宿泊でなく従来のホテルやゲストハウス泊であったとしても、動いたお金ではないのでしょうか?
こうした疑問に政府が回答してくれたりはしませんが、ニュースを読み込んでみると、手がかりは掴めます。
どうも、民泊を利用した外国人観光客というのは、その他のホテルなどを利用した観光客よりも、「宿泊以外の事柄」への消費が、多くなる統計が出ているとのことです。リーズナブルな民泊によって、1泊あたりの宿泊費が浮いた分、「長めに日本に滞在する」「観光や食事、みやげ物などの購入に費やす額が増える」という支出流動が起きているのです。
この事実は、観光地や飲食店、各小売店にとってはとても歓迎できる話です。売り上げが増すのですから。すると政府も税収が増えますから、政府もまた、もろ手を挙げて歓迎したくなるということです。
この活況をもっと拡大していきたいゆえ、政府は、「民泊による経済効果」という定義付けで発表するのでしょう。つまり、日本国民全体に対して、民泊の印象を良いものにしたいという意図が伺えます。
しかし当然、民泊のライバルとなる既存のホテルやゲストハウスなど宿泊団体からは、難色が示されます。パイを奪われるのですから、当然です。
…と思いきや、どうも、他の宿泊団体も、Airbnb(エアビーアンドビー)や民泊施設に対して、そう大きな嫌悪は抱いていないようです。
これは、たびたびニュースでも聞かれるように、そもそも日本の宿泊施設が深刻なほどの不足状態にあることが、関連しています。既存の宿泊施設も、昨今の外国人観光急増で繁盛していますから、別に民泊という第三勢力が現れたところで、大して痛くはないもようです。
それよりも、Airbnbが巻き起こすムーブメントが旅行業界全体を、さらには日本経済全体を盛り上げている事実に、歓迎ムードなのでしょう。地域の防犯対策などに対して、Airbnbと連携を取る動きすら起きているのです。
ちなみに、外国人観光客がどのようなことにお金を消費しているか、その動向も統計が取られています。平成24年の訪日外国人消費動向調査による結果は、以下のとおりです。
第1位 日本食を食べること(95%)
第2位 ショッピング(76.8%)
第3位 繁華街の街歩き(64.2%)
日本食への興味・消費が突出していることがわかります。「自然・景勝地観光(58.5%)」よりも、お金を使うタウンアクションのほうが好まれているようです。やはり、小売店や飲食業者がほほをゆるませたくなる好況には、たしかに、なっているようです。
1-2.「ホスト(民泊オーナー)が行う投資」が約1兆円。
こちらはまさしく、民泊の経済効果そのものです。ホストとは、Airbnb(エアビーアンドビー)をはじめとする民泊宿を運営する、オーナーのことを指します。
民泊事業は、比較的少ない先行投資で始められることから人気を博しましたが、そうはいってもそれなりの金額が動きます。持ち家をそのまま貸す家主同居型のホストの場合は、ややもするとシーツやバスタオルを数セット買い足す程度の出資しかしていないかもしれませんが、Airbnbのためにマンションや一軒家を調達して参入する投機型ホストの場合、バスタオルどころの騒ぎではありません。
マンションや一軒家を借りる前金に50万以上はかかるでしょうし、家具一式を揃えるのに100万円前後はかかります。このあたりは、ワンルームかファミリータイプかによってかなりの差が出ますが、それでも100万に達する額にはなります。また、こうした投機型ホストの場合、掃除やカギの受け渡しなどを代行業者に委託せざるをえないため、この代行費用にやはり、万単位、十数万、数十万という額が動きます。この代行費用は、毎月かかっていくものです。
その他、2016年に入ってから目立ってきた大手企業参入の場合、広告費用にケタ外れの金額が動くでしょう。大手企業による広告費は普通、何千万、何億というレベルです。ビルやマンションを丸々一棟買いするなら、そこにもまた、何十億、何百億という巨額のお金が動くでしょう。
1-3.「インバウンド消費(外国人観光客による消費)によるもの」が約7.5兆円。
3本目の柱、「インバウンド消費によるもの」という表記を見て、少々、首をかしげてしまいます。
「インバウンド消費」というのは通常、「外国人が訪日して、消費するお金」のことを指します。すると、1本目の柱として前述した「宿泊した利用者の消費行動によるもの」と、同じ意味のように感じられます。
これに関しても、政府も主要新聞社もその他の民泊ライターも、これといって明確な補足を示していません。
が、中国人の「爆買い」が話題となっている家電製品やコスメ、医薬品などの消費が、ここに該当しているようです。
3本の柱の中で最も大きな額であり、もたらされた経済効果の2/3以上を占めるのですから、簡単には素通りできません。中国人の「爆買い」がここに含まれているということであれば、高級分譲マンションの購入なども、ここに含まれていることが予想できます。不動産支出を含むとなると、総額は桁違いにもなります。
1-4.Airbnb(エアビーアンドビー)の見解では、2200億円。
民泊の経済効果についての記事を探していると、ずいぶん異なるもう1つの内容にぶち当たります。
こちらは、発信された時期としては「10兆円説」と同じ2015年暮れですが、出所はAirbnb(エアビーアンドビー)社となります。その内容は日本政府の発表したものとずいぶん異なります。この50倍近い金額差は、どこから来るのでしょうか?
この金額差についても、特に大きく議論されている気配はなく、つまり、どの方面の人々にとっても、「とにかくAirbnbや民泊で巨額の金が動いている」という意識共有ができれば、それで充分なのでしょう。