小説「シャンバラとアセンション」Vo.3
エピソード7
「内なる直感」に従って、黙々と歩き続けた私は、
やがて、横穴に行き着いた!
もう、死の一歩手前だった。
2時間前から、死の一歩手前だった。
そこは、
暗い暗い洞窟だった。
洞窟の入り口だけが、外の自然光でうっすらと明るかった。
奥は、漆黒の闇である。
どの程度の奥行きがあるのかも、私には、わからなかった。
私は、
洞窟の片隅にうずくまると、
蓄積し尽くした疲労のためか、すぐに眠りに落ちた。
何時間経ったか、わからない。
そもそも、何時間歩いたのかも、わからない。
時間感覚は、完全にマヒしていたが、
明日の通勤のために休息を取っていたわけでは無かったので、
時間のことなど、どうでも良かった。
私を起こしたのは、
雪崩の轟音であるとか、コウモリの鳴き声であるとか、
そうした、自然の力では、無かった。
人間の手が、とても優しく、
私の肩を叩いたのである!
目を開けた瞬間、目の前に人が居たときには、
私は、当然、びっくり仰天した!
そして、雪山遭難自体が夢であったかと思ったが、
どうやら、そうでは無かった。
私は、相変わらず、
崑崙山脈のどこかの、横穴に居た。
ただ、吹雪は止んでいた。
私を呼び起こしてくれたのは、
どこの国の人であるのか、想像も付かなかった。
アジア系の人であることは確かだが、
日本人という感じでは無い。
しかし、
カタコトの日本語を喋ってくれた。
「日本語が話せるから、私が来たのです」
と、彼女は、微笑みながら、言っていた。女性だったのだ。
彼女は、カンボジア人かベトナム人だと思う。
聞いておけば良かったと、今更ながら、思う。
年齢は、30歳程度に見える。
しかし、彼女が答えた年の数は、「300」だった!
「300とちょっと」だと言う!
普通に考えれば、驚きであるが、
ある程度、スピリチュアルな本を読み漁っていると、
「5次元文明の住民たちが、
若い姿を保ったまま、年齢を重ねていくらしい」
という事実を、そこかしこで聞いたことがあるだろう。
…もし、あなたが、
「30歳の容姿を持った300歳」
に驚かれ、バカバカしいと思われるなら、
この物語は、読み進めないほうが良いと思う。
この物語は、
ある程度のスピリチュアルな認識を持った人に向けて、
書かれているからだ。
少なくとも、地底世界に迷い込んだ人の本を、
1~2冊は、読んで来てからのほうが、良い。
大手の出版者の検閲をくぐり抜けて、大衆の目に触れている、
神隠しのようなストーリーの本が、
ネットで探せば、10冊くらいは見つかるはずだ。
エピソード8
彼女は、「エン」と名乗った。
本名は、全然違うらしいのだが、日本人にはわかりにくい名前なので、
ニックネームを教えてくれたらしい。
一応私も、本名を聞いたが、全く覚えられなかった…
ポワンとか、そういう響きが入っていた気がする。その程度だ。
彼女は、私に、
パンのような食料を差し出してくれた。
飲み物は無かったから、よく噛んで、消化せざるを得なかった。
エンは、私を急かしたりしなかったので、
ゆっくりと、食べた。ゆっくりと、噛んだ。
アゴが筋肉痛になったのは、何年ぶりのことだろうか。
2枚の丸いパンを平らげると、
それなりに、体力が回復し、体温が上がってきた。
「お茶は、もらえませんか?」
と、勇気を出して訊いてみたが、
「よく噛んで食べてもらうために、
敢えて、お茶は持って来ませんでした」
と、穏やかな笑みで、答えてくれた。
ろくに噛まずに食べることは、
食物の栄養やエネルギーを、ムダにすることなのだそうだ。
確かに、
日本にも、「一口30回噛みましょう」といった標語がある。
私は、職業柄、「ながら」で食事をすることが多く、
恥ずかしながら、「良く噛む」という習慣が、ほとんど培われていない。
…「まだ、子どもを産む準備が出来ていない」と、自分でも、思う…。
そのような「弱点」を、私が残していることを、
エンは、知っていたようだった。
私は、食事をしながら、
「エンは、どこから来たんですか?」
と、尋ねた。時々、英語も織り交ぜた。
「私は、シャンバラの大地から来ました。
あなたを助けるために。」
と、シンプルな日本語で、答えた。
「シャンバラって、
アセンションした人たちの文明じゃないんですか!?」
私は、興奮気味に問い掛けた。
「イェス。その通りです。」
私は、ぽかーんとして、彼女を眺めた。
彼女は、ごく普通の容姿をしていた。
何か、特別な人間といった気配は、無かった。
後光が差したりはしていないし、
天使の輪も、翼も、無い。
服装は、質素極まりなく、髪は、ただ腰まで伸ばしただけだ。
特徴というものを、まるで持っていない。
強いて言えば、
「卓越した穏やかさ」というものを、匂わせていた。
怒り出す気配も、怯え出す気配も、無かった。
そして、優しい笑みを持っていた。