副収入の獲得や生きがい創造のために、農家民泊の営みを検討している農家さんは少なくないことでしょう。そうして、インターネットで「農家民泊」と検索してみると…
「おいでやす。京都の農家民宿。」
「あなたも始めよう!農家民宿。」
といったページに数多く当たります。…あれ?農家民宿??
そうなのです。「農家民泊」と検索しても、「農家民宿」についてのサイトがヒットすることが多いのですよね。いったい、農家民泊と農家民宿というのはどう違うのでしょうか?どのような共通点があるのでしょうか?
当ページでは。農家民泊と農家民宿の違いについて、また、各々の経営を行うにはどうすれば良いかについて、徹底解説していきます。
1 農家民泊と農家民宿ってどう違うの?
まずは、農家民泊と農家民宿の違いについてを解説しますので、くっきりイメージ分けできるよう理解してくださいね。あなたが営みたいのはどちらでしょうか?開業のための手続きや経費はずいぶん異なりますから、違いを予め把握しておくことが大切です。
1-1.まずは共通点を。「農業体験の提供できる宿泊施設」が農家民泊&農家民宿。
最初に、共通点について解説しましょう。
農家民泊と農家民宿に共通する点は、「農業体験を宿泊者に提供する宿泊施設」と定義できます。厳密に言えば漁業でもよく、郷土料理のレクチャーや乗馬体験でもかまわないのですが、とにかく何かしらの自然体験プログラムを、ゲストに提供することが必須です。そのため、「グリーン(=自然)ツーリズム」と呼ばれているのですね。
もしあなたの家が農家であっても、農業体験などは提供せず単純に宿泊だけを提供したいと考えているならば、それは単なる「民泊」です。それはそれでかまわないことですが、当ページの主題ではありませんから、他のページを読んでみてくださいね。
1-2.参入がカンタンなのは、ダントツで農家民泊のほう。
さて、それでは農家民泊と農家民衆の違いを解説してきます。まずは参入のハードルについて。
ビジネスを始めるには、資金の調達や書類手続きなど頭の痛いことがたくさん関わってきますが、なるべくシンプルに済ませたいなぁと、誰もが思いますよね。そうした観点から言えば、参入がカンタンなのは、ダントツで農家民泊のほうです。
1-2-1.農家民宿は旅館業法や食品衛生法などいくつもの許可が必要。農家民泊は不要。
農家民泊→旅館業法や食品衛生法をはじめ、いくつもの許可取得が必要。
農家民宿→基本的に法的な許可申請は不要。地域の行政が定めている場合はそれに従う。
農家民宿は、「民宿」と付くとおり、民宿施設の一種となります。通常の民宿よりは規制が緩いのですが、それでもやはり、旅館業法や食品衛生法など様々な許可申請が必要なのです。
許可を得るということは、それ相応の規定を満たしていなければなりません。たとえば、ほとんどの農家さんでキッチンの改装が必要になるでしょうし、トイレも増築しなければならないでしょう。改装にも許可申請にも、お金が掛かります。
農家民泊の場合、こうした許可申請は必要ありません。改築も、基本的には必要ないと考えて大丈夫です。ただし、地域によって農家民泊の条例がまちまちで、お住まいの市町村によっては農家民宿並みの許可申請や整備が必要になるでしょう。
農家民宿の開業に必要な許可申請については、トピック≪各種の届け出を済ませよう。≫で詳述します。
1-2-2.1泊の単価が高いのは農家民宿。農家民泊は宿泊代金が取れない…。
農家民泊→宿泊料金の名義でお金を取れない。1人1泊5,000~7,000円。
農家民宿→食事と体験プログラムの料金を含め、1人1泊7,000~10,000円。
1泊あたりの単価を大きくしやすいのは農家民宿のほうです。設備がしっかりしていますから、当然ですよね。素泊まりでも1人1泊3,000~5,000円、食事と体験プログラムが付けば1人1泊7,000~10,000円くらいが相場になります。
農家民泊の場合、旅館業法の許可を得ていないため、「宿泊料金」という名目ではお金が取れません!「食事代」や「体験プログラムの指導料」の名目で代金を得られますが、1泊の総額としては農家民泊より2,000~3,000円ほど安めの相場に。また、農家民泊は反復してお客を受け入れることが許可されていません。「時々なら良いよ」というものなのです。
ただし、宿泊料金徴収の禁止や反復受け入れ禁止は、ほとんど守られておらず、咎められていないのが現状…。完全に法律を順守して営むか、ざっくりと営むかは、農家さん個々の判断にお任せします。
1-2-3.集客の間口が広いのは農家民宿。
農家民泊→集客は地域の農家民泊サイトがもっぱら。または民泊用の民間サイト。
農家民宿→地域の農家民泊サイトに加え、Yahooトラベルなど一般のホテル検索サイトでも集客が可能。
集客手段が豊富なのは、農家民宿のほうです。一般的に農家民宿は、地域の農家民泊推進団体などの統括するホームページやパンフレットが集客の窓口に。または、宿泊営業許可証があれば、Yahooトラベルやじゃらんなどといった一般的なホテル検索サイトにも掲載することができますよ。
対して農家民泊の場合、正規の宿泊施設ではないため、Yahooトラベルやじゃらんなどの一般的なホテル検索サイトに登録することはできません。民泊でも登録が可能なものとしては、Airbnb(エアビーアンドビー)やAgoda(アゴダ)が挙げられます。
ただし、農家民泊の場合、中学高校の修学旅行という大口のお客さんから人気が高いため、あなたの地域の農家民泊協会がどこかの学校と提携を結べられたなら、かなり賑やかになるでしょう。
1-2-4.経費が掛かるのは圧倒的に農家民宿。
農家民泊→タオル代、シーツ代、食材の実費くらいでほとんど経費はかからない。
農家民宿→リフォームに数十万~数百万円。許可申請にも数万円。その維持費が毎月かかる。
先行投資にしても毎月のランニングコストにしても、経費が多く掛かるのは圧倒的に農家民宿のほうです!この点は充分に注意してください!なにぶん家屋の改修が必要になってくるケースがほとんどなので、まず先行投資に数十万円から数百万円は掛かります。そして、立派な設備やサービスを掲げるほど、それを維持するための毎月のランニングコストもかさんでしまう…。
農家民泊の場合、空いている部屋があるなら今の家屋のままでも経営が可能なので、初期費用はほどんど掛かりません。バスタオルやシーツなどは新しいものを用意したほうがよさそうですが、それでも数万円といったところでしょう。月々のランニングコストについても、食材や体験プログラムの実費がかかる程度のものです。
1-3.人気があるのは農家民泊のほう。
農家民泊→「ありのまま」が功を奏して、需要も満足度も高い。
農家民宿→設備やサービスにお金がかかっているわりに、あまり人気はない。
農家民宿のほうが設備がしっかりしていますから、人気が高いかと思いきや、世間の声はそうでもありません!多くの人たちにとって、農家体験に求めるのは「素朴さ」「普通さ」「人情」であるようで、すると、より普通の農家らしい農家民泊のほうが、需要も満足度も高くなっています。前述のとおり、学校の修学旅行に採用されているのももっぱら農家民泊のほうです。
農家民宿の場合、建物やサービスに独自性を出し、自力で人気を獲得していくのが繁盛への近道でしょうか。また、農家民宿サイトでは、あえて「農家民泊」という名称を使っていることも少なくありません。
1-4.ストレスが少ないのは農家民泊のほう。
農家民泊→「お客さんは家族」のイメージなので気楽。赤字に苦しむこともない。
農家民宿→「お客様は神様」の精神できっちり接客しなければならない。赤字の懸念も。
経営に掛かるストレスが多いのも、農家民宿のほうです。宿泊者はどうしても、「民宿」を冠する宿泊施設に対してはそれなりにクオリティを期待します。ホテルや旅館と同じように礼儀正しくあいさつをしたり、配ぜんやベッドメイクなどもお客さんに触らせるわけにはいきません。「お客様は神様」の精神で接する必要があるのです。
また、先行投資が多く掛かっているため、どうしても収益の確保・向上に苦心しなければならなくなります。そのわりに農家民宿の景気はあまりよくないので、かなり苦労をするでしょう。
農家民泊の場合、お客さんはあまり甲斐甲斐しいサービスを求めてはいません。「サービス」よりも「交流」を求めており、「ちょっと庭木の剪定を手伝ってよ」「一緒に料理つくろうか」などと誘われることをむしろ喜ぶので、ゆったりした気持ちで接客ができます。「お客さんは家族」「孫が遊びにきたイメージ」でもてなすのが、農家民泊です。
1-5.注意が必要なのは、圧倒的に農家民宿のほう!
農家民泊→だまされることもなく赤字もないので、あまり注意は要らない。
農家民宿→行政の利権に振り回されてしまうことが!赤字の懸念も大きく注意が必要。
経営参入の際に注意が必要なのは、圧倒的に農家民宿のほうです。上記のとおり、農家民宿はそれなりにお金がかかり、かといって消費者のニーズはそんなに高くないので、赤字の懸念が常に続くでしょう。よほどビジネス手腕のある人や、赤字をこうむってでも地域の活性化に、農業の活性化に貢献したいと願う人向きと言えます。
こんなに険しいのに、各地域の行政や振興団体が企画するのは「農家民宿」のプロジェクトばかり…。なぜなのでしょうか?
経済を考える人にとって、重要なのは「お金が動くこと」なのです。農家さんが農家民宿を営むなら改修や申請にお金が動くので、農家民宿のほうをやりたがる行政が多くなります。各農家さんが黒字を続けられるかということをあまり配慮していない(配慮が口先だけな)行政が多いので、勧誘された際には充分に注意し、充分に検討を重ねましょう。