なかなか停滞ムードから抜け出さない日本経済…。絶望とも形容できそうなその惨状において、唯一と言ってよいほど活況を見せているのが、外国人観光客がらみの経済です。
この現象は、経済に興味のあるビジネスお父さんはもちろんのこと、それ以外の人々においても、一種の一般常識や社会情勢として、知っておいたほうが良さそうです。
「民泊」なんて単語が、今年のセンター試験には出るかも!?
1 外国人観光客が急増!…ってホントなの!?
ニュースや新聞では連日のように、外国人観光客増加の目覚しさについて報道しています。でも、それを実感している人とそうでない人の差は、とても大きいようです。
郊外の住宅街に住み、その近郊で生活が完結している人々にとっては、外国人観光客の増加は、あまり肌身に感じられないことでしょう。外国人の姿を、目撃しないからです。
しかし、東京や大阪などの都心に住んでいたり出勤したり、秋葉原などのショッピングエリアに出かけたり、京都や鎌倉などの観光地に住んでいる人々は、ここ数年での観光客急増を、もはやうっとおしいと感じてしまうくらいに、痛感しているようです。単純に、目撃量が多いのですから!
最近では、海外旅行から関空に帰国してきたとき、イミグレーションでの入国審査に3時間も待たされた!などというトホホなエピソードも、よく見聞きします。外国人観光客の増加って、良いことばかりとは限らないんですよね…
しかし、この外国人観光客の急増現象は、たまたま起きたことではないんです。日本の政府が計画的に仕掛けたことで、つまりそれで得られる恩恵は、少なくはないはずなのです。
このコラムでは、そのメリットのほうに最大限着目したいのですが、中でも最も大きなバブルを起こしているのが、「民泊」業界と言えるでしょう。民泊業界は今、ラッキーボーイのような存在で、騒がれるだけのことはあるのです。
さて、どうして民泊が、ラッキーボーイに踊り出たのでしょうか!?
1-1.外国人観光客はどれくらい増えているか?なんと、15年前の4倍!
まずは、外国人観光客がどのくらい増えているのか、それを数字とともに具体化しましょう。
さかのぼること西暦2000年において、日本に訪れた外国人観光客数は476万人でした。これもすごい数字だなと思いますが、他国と比較すると大したことはなく、また東京都心に住んでいても、あまり外国人観光客を実感できる数字ではありませんでしたよね。
そこから外国人観光客数は、徐々に増え続けます。2011年の福島第一原発事故では、やはり急降下の落ち込みを見せましたが、13年にはもう、順調に回復、そして急成長を見せます。
2014年には1,300万人を突破。日本政府は、東京オリンピックの開催される2020年までに、2,000万人の呼び込みを目標に掲げましたが、なんと、2015年の段階で、早々とそれを(ほぼ)達成してしまったのです!いまや、2020年の目標を、倍の4,000万人まで引き上げています。
1-2.ホテルというホテルが満室!ラブホテルまで総動員。
2015年6月に観光庁が発表した「観光白書」によれば、日本各地の宿泊施設の稼働率は過去最高を更新し続け、東京や大阪にいたっては80パーセントを超えました。すると、【夏休みやお正月などのハイシーズンともなると、もう既存のホテルだけでは受け入れきれなくなっているのです。】
旅行ホテルに泊まれなかった外国人観光客は、ビジネスホテルやカプセルホテル、はてにはラブホテルやインターネットカフェにまで寝床を求める実情です。
こうなってくるともう、【当事者(宿泊施設や外国人観光客)だけの問題ではなくなってきました!】ビジネスマンは出張の際の宿泊先を確保できなくなってしまうかもしれませんし、余暇を楽しむ若者たちは、インターネットカフェからあぶれる懸念さえ想定して、行動しなければなりません。
2 外国人観光客の急増は、計算済みだけど計算外!の安倍政権。
私たち国民からすると、「寝耳に水」な感もあるこの外国人観光客の急増劇。
ですが、実はこれ、【安倍政権から見れば、計算済みのことなのです。】アベノミクスは「円安」をせっせと押し進めてきましたが、それはつまり、外国人に日本のあれこれをたくさん消費(購入)してもらう作戦だったのです。
その「消費」の中には、もちろん、日本への観光旅行も含まれるというわけです。
【しかし安倍政権は、外国人観光客の増加によって宿泊施設が足りなくなってしまうことまでは、頭が回っていなかった】様子…。そこでちょっとした混乱が発生してしまったのです。
2-1.足りない宿泊施設を補ったのが、民泊でありAirbnb(エアビーアンドビー)。
泊まる場所がない外国人、外国人にベッドを提供できない日本政府、その両者を救ったのが、Airbnb(エアビーアンドビー)を主とする「民泊」だったのです。これはある種、偶然のようないきさつだったのですが…。
民泊という言葉と並ぶようにして世間を騒がせているAirbnb。これは、アメリカ発の民泊仲介サイトなのですが、2008年に登場し、2012年頃にはもう、日本を先駆けて諸外国で、大きなムーブメントを起こしています。すでに宿泊施設の選択肢の1つとして、市民権を得ているのです。日本ではあまり評判の良くないAirbnbですが、海外での評判は、日本とはずいぶん色が違うのです。
日本では、外国人観光客が急増しはじめた2014年頃には、すでに海外の動向に敏感な人々が、Airbnbを利用した民泊カルチャーを開始していました。「官」ではなく「民」が、外国人のおもてなしを、着々を押し進めていたのです。
ホテルや旅館よりも参入の敷居が低く、また利益率も高いこの民泊というシステムは、投機ビジネス界の人々からも注目を浴びます。すると2014年~15年の間に、爆発的に、日本のAirbnb物件が急増します。2016年、日本の登録物件数は20,000件を超えました。
何かが急増するとき、それは珠玉混交となるのが世の常なのですが、そういうわけでAirbnbによる民泊はトラブルも多発してしまい、良くも悪くも、日本中から注目を浴びることとなりました。
2-2.政府も板ばさみ。民泊施設は増やしたい。トラブルは防ぎたい。
投機的なAirbnb(エアビーアンドビー)物件は特に、管理者が不在の状態で部屋貸しをするために、サービスの質が悪く、またトラブルが頻発します。そもそも民泊というものが、法律的にかなりグレーなものです。通常だと、トラブルがニュース沙汰になったのを機に一気に規制され、また並みいる民泊物件も一斉検挙されてしまいそうなものですが、そうはならなかったのです。
むしろ日本政府は、現行の法律(旅館業法)のほうを改正してでも、民泊を守り、支持し、推進する構えを見せたのです。
2-3.法改正だけじゃない。助成金だって支払われている。
なぜ民泊は、Airbnb(エアビーアンドビー)は、グレーなのに規制されず、逆に日本政府から推進されるのでしょう?
その理由は、ホテルや旅館など既存の宿泊施設だけでは、現状の2,000万人、さらには目標としている4,000万人の外国人観光客を、とうてい受け入れきれないからです。
日本政府はこれに対して、巨大なホテルを造ったりするのではなく、民間大衆のチカラを借り、民泊を網の目のように網羅することで、対応しようと考えているのです。
もう1つの理由としては、インバウンド(外国人観光客による)収益による経済効果です。アベノミクスはこれを狙ってまい進しているわけですから、「受け皿が足りないから帰ってください」とは言いたくないのです。外国人観光客に、ショッピングや観光や文化体験を堪能してもらうには、宿泊施設をなんとしても確保しなければならないのですね。
政府の宿泊施設拡大は本当に必死で、たとえば東京都の場合、外国人向けの宿泊施設の改装やサービス拡充に、助成金を出しているほどです。トイレを洋式に改装したり、外国語のパンフレットを作ったり、無線LAN設備の導入にすら、助成金が出ます。ちょっと過保護すぎるのではとも思うほどですが、それほど必死であることがわります。
2-4.何よりも、外国人観光客から望まれている民泊。
民泊を支持したのは、日本政府だけではありません。
【外国人観光客の皆さんも、民泊を非常に支持している】のです。
世間には、「ホテルが取れないから民泊が利用されている」と思い込んでいる人々が多いようなのですが、実情はそうではないのです。
ホテルが空いていようがいまいが、進んで民泊を利用しようと考える外国人観光客が、大勢いるのです。
その理由は、主に2つです。
1つは、値段がとても安いため。
ホテルの場合、1人でも1泊5千円くらいはしますが、Airbnb(エアビーアンドビー)の民泊の相場は、シングル3,000円かそれ以下です。家族向けの部屋でも1泊1万円程度で泊まれます。
もう1つは、「日本文化を堪能できる」ということ。
私たち日本人は、他人の家に寝泊りすることをあまり好みませんが、外国人の方々はかなり、ホームステイというものを楽しんで行っているのです。